501「レイルパスにスタンプを押してもらったけど、列車に乗れない…?」デンマーク、ロスキレ
2019年 04月 15日
2004年春、定刻よりちょっと早めにコペンハーゲン国際空港に到着。入国審査も、いつになくスゥ〜ッと通り抜けた。おっ、幸先がいい〜!大きなリュックを待っていると、これもかなり早めに出てきた。うん、本当に全く幸先がいい〜!思わずほくそ笑んでしまう。リュックを受け取り、すぐに空港駅の鉄道の切符売り場を目指した。スキャン・レイルパスにヴァリデイト・スタンプを押してもらうためだ。駅は空港地下にある。とにかく全てまとまっていて便利。
スタンプの押されてないレイルパスを差し出す。切符売り場の男は、一瞬怪訝そうな顔つきで僕を見た。レイルパスを渡し、パスポート・ナンバーと今日の日付、パスの使用可能最終日を書き込んで、最後にスタンプをポンと押してもらう。これでOKだ。後はコペンハーゲン中央駅経由で、直接最初の宿泊地であるロスキレへ列車で向かうだけだ。
「すいません。列車の乗り場はどこですか…?」
「残念ですね、列車は今日、信号故障で走っていないんです。で、あなたはどこへ行くんですか…?」
「えっ…?!」
駅員の怪訝そうな顔の理由が分かった。何と、僕のもくろみは到着早々狂ってしまったのだ。
「ロスキレへ行くんだけど…」
「じゃ、あっちの方からバスが出ますから、それに乗ってコペンハーゲン中央駅まで行って、そこから列車に乗ってロスキレに行ってください」
「あっちって、どこからバスが出るんですか…?」
「その出口を出て、ほら、あの道路の向こう側です」
駅員が指さした出口から空港の外へ出た。空は曇っている。風が強い。気温は10度ちょっと。少し肌寒い。確かに、その先には広々とした駐車場があり、バスが何台か停まっていた。バスのフロントグラスに貼られた行き先は、どれも「MALMÖ」スウェーデンのマルメ行きだ。コペンハーゲン行きなんて1台もない。近くに停まっている運転手に聞いてみた。すると、コペンハーゲン中央駅行きはすぐにやって来ると言う。
乾いて冷たい風が吹き付ける中、コペンハーゲンへ行く人々と一緒にバスを待つ。バスが何台か駐車場に入ってきた。フロントグラスには「KØBENHAVN H」と表記。よし、コペンハーゲン中央駅行きだ、やったぁ…!僕は過去に何度かデンマークに来ているので、デンマーク語にはちょっと慣れている。ちなみに最後の「H」は中央駅の略。ドイツ語で中央駅を「Hauptbahnhof」と言うから、デンマーク語もその意味だと思う。
バスは混んでいた。リュックをサイドのトランクに無理矢理押し込み、真ん中のドアからバスの中に乗り込んだ。多くの乗客同様、立ったままバスに揺られる。まぁ、中央駅に着けばいいのだ。多少の混雑はやむを得ない。東京の通勤列車の中でも滅多に座ったことはない。立つのは慣れている。
何とかコペンハーゲン中央駅に到着。バスが停車した場所は駅の入り口があるコンコース側でなく、道路から直接プラットホームに降りられる陸橋の上だった。そんな場所に詳しくて、列車の時刻表などあるはずがない。さて、ロスキレ行き列車が出るプラットフォームが全く分からない。近くに立っている女性に聞いてみた。女性は時刻表をしばらく見ていたけど、分からないと言う。
しかたない。とりあえず女性に礼を言って、プラットフォームに降りた。中央駅のコンコース側まで行けば、でかい電子掲示の時刻表があるはず。しばらく行くと、向こうからかなり太めの女性鉄道職員が歩いてきたので、彼女に聞いてみる。
「すいません、ロスキレ行きは、どのホームから出るのですか…?」
「隣の7番から、5時20分に出るわ」
彼女は時刻表を見て親切に教えてくれた。ありがたい。ラッキー!列車はちょうど15分後に出る。そうして列車に乗って、約30分経過。今回の北欧の旅最初の滞在地ロスキレに無事到着。実は僕が来る1週間前、日本の皇太子殿下がこの国を訪れていた。目的はデンマーク皇太子の結婚式参列のため。結婚式前日、皇太子殿下もこの街の「ヴァイキング船博物館」を訪問していた。
ロスキレRoskildeはデンマーク最古の街のひとつ。ヴァイキング船博物館では、かつてロスキレ湾底から5隻発掘されたヴァイキング船が展示されている。この街には11世紀よりデンマーク国王の宮殿がおかれ、1170年には今や世界遺産となっているロスキレ大聖堂が建てられた。ゴシック様式の大聖堂には、デンマーク歴代国王の棺が安置されている。
ロスキレ駅を出て、ガイドブックの地図を見た。予約したホテルは駅のかなり近く。リュックのキャスターをカタカタ鳴らしながら石畳の道を歩く。ホテルの名前は「プリンセン」で、デンマーク語では「プリンス」という意味。1695年開業の歴史ある建物。宿泊料金はシングル1泊850DKK。DKKはデンマーク・クローナーで、この頃のレートは1DKK=17.84円だから、1泊約15,300円。
部屋は最上階に近い屋根裏部屋だった。さすがに歴史のあるホテル。ということで内装などの雰囲気は申し分ない。軽く旅装を解く。さぁ、散歩だ…!ホテルの裏口を出ると駐車場。信号を渡ると、黄色い壁の建物が道路沿いに続く。ユネスコの世界遺産に登録されているロスキレ大聖堂へ続く道だ。壁の長さは50m近く。黄色い壁には茶色の梁が入って、屋根も同様のレンガ色に近い茶色の瓦。三角形の単純な尖り屋根がなんとも可愛い。
大聖堂へ向かうと、道の左手に豪奢な市庁舎が建っていた。市庁舎の前は広場。大聖堂の方を見ると、遠くに海がちらっと見えた。ロスキレ・フィヨルドだ。フィヨルドといっても、ノルウェーのような断崖絶壁ではない。氷河が削り取った細長い入り江といった感じだ。その海岸そばに、皇太子殿下が訪れた「ヴァイキング船博物館」がある。
博物館はすでに閉まっていた。開館時間は午前10時から午後5時まで。閉館ではしかたない。フィヨルドをカメラ片手にのんびり歩く。岸辺には何艘ものヨット。たまにジョギングや犬と散歩している人々と出会う以外、観光客の姿は全くない。博物館隣の空地に、建造中のヴァイキング船があった。辺りには削ったばかりの木屑が散乱。とても心地よい香りだ。
ヴァイキング船の舳先に設置された鉄製の階段を上がる。建造途中の様子が見えるようになっていた。確か、皇太子殿下もここからヴァイキング船を見たはず。僕は1週間前に見たTVニュースの場面を思い出した。入り江にはヴァイキング船が何艘か係留されている。たぶん昼間、多くの観光客を乗せてフィヨルドを曳航するのだろう。海から直接冷たい風が吹いてくる。さすが北欧。かなり体が冷える。
デンマークと日本の時差は7時間。冬はこれに1時間足す。ということは、日本はもう朝の3時頃。眠くはないけど、疲れはひどく感じていた。何かさっぱりしたものを食べたいけど、デンマークにうどんやそばがあるわけない。ホテルに戻った。中にあるバーに入ってビールを飲むことにする。
ビールを頼んで、そばのテーブルに腰掛けた。隣のテーブルでは、金髪の美しい女性2人が何やら真剣に話し合っている。その様子を肴にグビッとビールを飲む。テーブル上のメニューを見ると、パニーニがあった。早速カウンターにいる女性にパニーニを頼む。しばらくすると若い女性が申し訳なさそうな顔で「すいません、パニーニは今できません」と言った。残念。
諦め顔をしていると、キッチンの若い男が「大丈夫、パニーニできます…!」と言ってくれた。途端に女性の顔がパッと明るくなる。若い女の子はやはり笑顔がいい。僕は部屋で食べたいからと彼女に言った。ビールを半分ほど飲んだ頃、パニーニができあがった。結局、デンマーク初日の食事はそれでお終い。後はバスタブに湯をたっぷりためて入浴。疲れが吹っ飛んだ。
翌朝、ゆっくり朝食を取りチェック・アウト。リュックをフロントで預かってもらい、昨日見られなかった大聖堂に向かう。市庁舎前の広場には、肉屋やチーズを売る店、さらには魚屋や八百屋、花屋などいろいろな店が出ていた。仮設のステージでは、高校生らしきビッグ・バンドがジャズの『キャラバン』を演奏している。広場は楽しそうな雰囲気に包まれ、みんな演奏に聴き入っていた。
大聖堂の入場料は25DKKで450円。中に入ると、堂内にはすでにたくさんの観光客がいた。ロスキレ大聖堂は1170年代に築かれた。日本ではまだ源頼朝が鎌倉に幕府を開く前のこと。その後歴代の王によって10カ所以上も増改築され、さまざまな建築様式が混在しているという。堂内には美しい飾り時計が展示され、それは僕の目を強く惹いた。
他の観光客は入口で配布していた簡単な説明書を見たり、ガイドの説明を聞いていた。僕は英語とデンマーク語で書かれた説明書を読む気にもなれず、勝手に自分の見たいものだけさっさ見ることにした。パイプオルガンなどを写真に収める。帰りに入口の売店を見ると、数枚のパイプオルガンのCDがあった。その中から2枚を選んで買う。また僕のコレクションが増えた。