人気ブログランキング | 話題のタグを見る

1990年から旅したヨーロッパのイロイロな街と20世紀末の下北沢を、写真と文章で紹介していきたいと思います。


by KaZoo

338「若者は『10年後なんて分らないよ』と言った。それは全く正しいのだな…!」ベルギー、ルーヴェン

ベルギーの大学町ルーヴェンは今まで2度訪れている。最初が2000年春。その次が10年後の2010年初夏。2度目の2010年はベルギー南部ナミュールから、世界遺産のシタデル(城砦)があるディナンに途中立ち寄りをしてルーヴェンに辿り着いた。ルーヴェンでは前日同様ホテルの予約はなし。僕は駅から街の中心部に向かって歩き、いつものように雰囲気のいいホテルがあったらシラミ潰しに空室があるか聞くつもりでいた。

ルーヴェンでは2連泊したかった。何たってここ3日間、毎日ホテルが変わって少々気分が落ち着かなかったからだ。526日から始めた旅も1月近く経って今日は622日。心身ともに疲労も溜まってきている。少しは連泊して心も体も休めたい。それにそろそろ洗濯だってしなければならない。ブラブラ歩いていると左側前方に「HOTEL」の看板を発見。真向かいに劇場があるので「ホテル・テアトロ」とは何とも安易なネーミング。

まずは空室があるか聞いてみる。レセプションは2階。狭い階段を上がっていくとカウンターに男が2人立っていた。まだ新しくて雰囲気もよさそうだ。だけど値段も高そうに見える。2連泊したいと言うと、1人が困った顔をして言いにくそうに話し始めた。

「今夜は空室がありますが、明日はフル・ブッキングなんです…!」

とりあえず料金を聞くと1泊€90。僕の希望は€70プラス・マイナス€10。ちょっとオーバーだけど2連泊できないのではしかたがない。何でも明日からイヴェントがあるらしく、どのホテルも満杯だと男は親切そうな顔で教えてくれた。なるほどイヴェントがあるならルーヴェンでの空室探しは難しそうだ。さて、どうしようか…?とりあえずツーリスト・インフォメーションに行ってみようと考えた。まだ1軒目だ。ツーリスト・インフォメーションでイロイロ聞いてからでも遅くはない。

ルーヴェンのツーリスト・インフォメーションは市庁舎内にある。壮麗な建築物である市庁舎は大きな広場グローテ・マルクトにある。以前訪れているから大体のことは分かる。早速ツーリスト・インフォメーションに行き係の女性スタッフにイロイロ聞いた。するといとも簡単にすぐ近くのホテル・プロフェソールProfessorを紹介してくれた。とはいえ空室があるかどうかは別だ。女性スタッフが電話をかけると、Bingo〜!何と空室はあった。2連泊も大丈夫だという。僕は即刻予約を頼んだ。

嬉しいことに宿泊料金は朝食付き1泊€65で希望予算内。さらにバス・タブ付きの部屋だと言うから万々歳。ほら見ろ、あったじゃないか…!全くさっきのホテル・テアトロの男たちはイイカゲン過ぎる。などと元々イイカゲンでテキトーな僕が思ってしまう。何はともあれまだまだ僕はツキに見放されてはいない。女性スタッフに礼を言って、すぐツーリスト・インフォメーションの斜め前にあるホテル・プロフェソールに向かった。

あれれ、このホテル、覚えているぞ…!何とホテル・プロフェソールは偶然にも10年前に泊まったホテルだったのだ。さっきホテルの名前を聞いただけでは思い出せなかった。気づいたのはホテルの外観を見てからだ。しかも僕は間抜けで気づかなかったけど、実はガイドブック『地球の歩き方』にも載っていた。全くどこに目がついているのだか、相変わらずの節穴で大間抜けでイヤになってしまう。

以前も泊まったホテルってことで急に愛着を感じてしまう。チェック・インを済ませて部屋に向かう。前回泊まった部屋とは違うけど、今回の部屋は適度な広さがあり居心地のよさを感じた。窓を開けると気持ちいい風が入ってくる。バス・タブも付いて朝食付き1泊€65は充分に納得できる。何たって今回は36日間の長旅。ちょっとでも節約できると嬉しい。いつものように連泊初日は洗濯日と決めている。早速荷物を整理して洗濯を開始。今日もシッカリ4日分洗う。

洗濯が一段落したら早速ルーヴェンの街歩きに出かける。ルーヴェンは僕の好きな大学町。ルーヴェン・カトリック大学は1425年、ローマ教皇マルティヌス5世によって創立された由緒ある学府。現存するカトリック系大学としては世界最古。ルネサンス人文主義の代表者エラスムスや地理学者メルカトールはこの大学で教鞭をとったという。メルカトールが考案した世界地図は、15世紀末から大航海時代に入る航海用地図として重要な発明だった。僕たちも中学と高校ではメルカトールの地図で世界地理を学習している。

ちなみに「メルカトール」とはラテン語で「商人」を意味するらしい。メルカトールは元々商人の家系だったのか…?僕は記憶にないけど共通通貨ユーロ€が導入される前、かつてのベルギー紙幣1,000フラン札にはメルカトールの肖像画が描かれていたらしい。たぶん初めてベルギーを訪れた1992年頃はそうだったかもしれない。そうと分かっていたら1枚残しておけばよかったと思うけど、今さら遅い。

まずは大学ホール前の大きな広場アウデ・マルクトに向かう。どのカフェも学生がいっぱいで大賑わいだ。前回訪れた2000年は広場にもカフェにもこんなに人はたくさんいなかった。今回はちょうど南アフリカでサッカーW杯が開催中で、ほとんどのカフェはサッカー中継をしている。多くの客がテレビ画面に釘付けになっているけど、みんながみんなW杯に夢中って訳でもないようだ。何たってベルギーは今回W杯に出場してない。だから関心はちょっと薄いのかもしれない。

ルーヴェン連泊2日目。僕は首都ブリュッセルに日帰りしようと決めた。実はブリュッセルにヨーロッパで一番美味しいと思っているラーメン屋があるのだ。2000年春ブリュッセルでそのラーメン屋「やまと」に入った。ガイドブックにも「ヨーロッパで一番うまいラーメン屋」と紹介されていたけど、確かに「やまと」のラーメンはそれまでヨーロッパで食べたどのラーメンよりも美味しかったのは事実だ。

前回2000年の旅でしばらくラーメンを食べていなかった僕は、ブリュッセルでラーメンを食べられ大いに満足できた。そんな思い入れのある美味しいラーメンが今日食べられる。実は数日前から僕は「やまと」のラーメンのことを考えて幸福だったのだ。だけどブリュッセルに向かう途中、ガイドブックを見ていて大事なことに気づいた。何と営業時間が「18302100」となっていたのだ。

確か以前は昼間もやっていたはず。僕は店の開店を待って食べた記憶がある。それなのに営業時間が急に変わってしまった。何だ、昼間はやってないのか…?迂闊にも事前にちゃんと確認しなかった僕の不注意。途端にガクッと膝も折れヘナヘナ意気消沈する始末。ということでブリュッセルでは美味しいラーメンが食べられず、代わりに「SAMOURAI」なんて妙な名前の和食店に入って熱燗を飲み、イベリコ豚のトンカツを食べることになった。

懐かしくブリュッセルを2時間ほどブラついてルーヴェンに戻る。夕食時間になった。街をブラついている時、10年前に入ったBARがまだ営業しているのを発見。懐かしさを感じ入ってみることにした。ここも全く変わってない。空いているカウンター席に座る。入口近くのカウンター席には子供と家族が座っていた。子供はチュッパチャップみたいな棒付きキャンディーがタップリ入った透明のケースから、嬉しそうにキャンディーを取り出し舐めている。どうやら常連さんは自由に取っていいようだ。

「何にします…?」

カウンターの長髪の若者が僕に聞いた。カウンター上部は2段の棚になって、たくさんのベルギー・ビールの空ボトルが並んでいる。さすが「ビール王国」ベルギー。だけどビールがたくさんあり過ぎてどれを選んだらいいか悩む。

「オススメはある…?どっちかというと香り高いのがいいんだけど…!」

すると若者は1本のボトルを僕の前に置いた。小振りなボトルで「VEDETT」というブランドだ。前に日本でも見たことがあるし、飲んだこともあるような気がするけど確かではない。とりあえず飲んでみる。なかなかイケるので大満足。

外国に1人で旅立つと外国語を喋らなければならなくなるから、必要以上の会話をしなくなって言葉が少なくなってしまう。時にはほとんど喋らない日だってある。高年齢のせいもあるけど、一番怖いのは会話能力が知らない間に衰えていくことだ。目の前にいる若者は英語が通じると分かった。和んできたところで急にイロイロ若者に話しかける。

「実はさ、この店には10年前に来たことがあるんだ…!」

「へぇ、オレはつい最近ここで働き始めたんだ…!」

「なるほどね。きっと僕は10年後にもここにやって来るつもりだけど…?」

「へぇ、悪いね、オレは10年後にはここにいないと思うよ…!」

急に肩透かしを食らう。だけどカウンターの若い男の言っていることは間違ってない。誰だって10年後なんか分かりゃしない。ひょっとしたら明日だって分からない。見た目は20代半ばの気さくなヤツだけど、もしかしたらルーヴェン・カトリック大学の優秀な学生かもしれない。前回来た時は店の内部をよく見なかったし写真も撮っていなかった。僕はカウンター席から下り、数枚店内写真を撮らせてもらうことにした。

「いいね、この店の内装は…!」

「上の階に行ってみなよ。もっといい感じだから…!」

若い男のススメに素直に頷いて上の階へ向かう。確かにどの階もそれぞれに工夫を凝らしたレイアウトと内装で雰囲気がいい。さらに最上階にはオープン・テラス席もあった。これは想像以上に面白い店だ。僕はいい気分で10枚近く写真を撮った。確かに若者の言う通り10年後のことなんて分からない。もしもまたルーヴェンを訪れる機会があったら、僕は絶対にまたこのBARに来てみようと考えた。だけど果たして、その時にまだ店があるかどうか…?そういう僕だって生きているかどうか…?分からないことだらけだ。

思い出のBARは小さな川沿いにある。小さな川を挟んで対岸によさげな感じの中華料理店がある。ということで今夜の夕食は中華料理に決定。頼んだのは白ワインと白アスパラガスのスープ、そして野菜のチャーハン。まさにベジタリアン・メニュー。少食で偏屈な僕の胃袋には最良の選択だ。夕食を終えて部屋に戻るとテレビではW杯サッカーの試合中。早速テレビの前に座って釘付けになる。結局D組はガーナとドイツが決勝トーナメント進出を決めた。

W杯観戦後は日本から持ってきた入浴剤を入れてくつろぎのバス・タイム。考えてみると一昨日はフランスのメッスで、昨日はベルギーのナミュールで、そして今日はルーヴェンで、僕は運よくバス・タブのある部屋に恵まれた。いつも宿泊料金を極力抑えているから、普通はなかなかバス・タブ付きの部屋に泊まれないことが多い。長い旅の間にはこんな幸運が3日続くこともあるのだ。

明日から3日間はまだベルギー。明日はカリヨンで有名な街メッヘレンで1泊する予定だけどホテルの予約はなし。どんな部屋が僕を待っているか…?楽しみでもあるけど若干不安でもある。明後日から2日間はアントワープのホテルを連泊予約してある。その後の4日間はオランダに滞在する。まずはデルフトで1泊、そして最終滞在地の大学町ライデンでは3連泊。明後日からのホテルは全て予約済みだからホテル探しで悩まなくてもいい。

今回36日間の長旅はスイスのチューリヒから始まった。そしてリヒテンシュタイン、オーストリア、チェコ、ドイツ、フランス、ベルギーと巡って、いよいよ最終滞在地オランダのライデンで終わりを迎える。旅を始めた頃は毎日ワクワクしていたけど、旅の終わりが近づくと日1日と何だか妙に寂しく哀しくなってくる。翌朝5時、窓の外で学生たちが騒々しくするので思わず目が覚めた。若くて元気があるのはいいけど朝は静かにして欲しいと願う。

 (◎旅ブログ『てくてく ベルギー』のバックナンバーは以下の[タグ]から検索してください!)


by 1950-2012 | 2023-06-02 01:27 | ヨーロッパ 旅 紀行 | Comments(0)